「最終面接まで頑張った人が、
ゼロからやり直す社会はおかしい」
親友の“就活うつ”をきっかけに、不採用を次の企業からのスカウトへ変えた29歳。目の前の違和感を、失敗や遠回りを経て事業へ変えてきた。

久保 駿貴 ― 株式会社ABABA 創業者。最終面接まで進んだ学生を企業がスカウトできるサービスを提供。
取材場所に現れた久保駿貴は、就職活動の仕組みを変えようとしている起業家という前情報より先に、まず相手の話をていねいに聞く聞き手の顔をしていた。
1997年、兵庫県明石市生まれ。岡山大学在学中に株式会社ABABAを創業した。最終面接まで進んだ学生を企業がスカウトできる採用サービスを展開し、不採用で消えていた選考過程を次の機会へつなげている。創業の原点は、親しい友人が最終面接で不採用となり、数カ月連絡が取れなくなるほど落ち込んだことだった。
肩書だけを見れば、時代の追い風をつかんだ若手の成功者に見える。だが、話を聞いていくと、その歩みは最初から計画されたものではない。目の前の違和感を放置せず、失敗や遠回りを次の行動へ変えてきた結果だった。
小宮そもそも日本の新卒採用は、戦後の高度成長期に定着したと言われる「一括採用」を前提にしてきました。企業は「母集団」をどれだけ大きく集めるかを起点に選考を組み立て、学生は何十社にも応募する。この構造そのものを、久保さんはどう見ていますか。
久保その仕組みが悪い、とは思っていません。決まった時期に多くの学生が一斉に動くからこそ、企業も採用の計画が立てられる。ただ、母集団を大きくするという発想は、裏側で必ず大量の不採用を生みます。何度も面接を重ねて、最終選考の数人まで残った学生でも、通知が一通届いた瞬間に、その企業が積み上げてきた評価はどこにも残らない。そこだけが、ずっと引っかかっていました。
小宮最終選考まで進んだ実績が履歴に残らない。その心理的な負担は大きく、いわゆる“就活うつ”も、繰り返し社会課題として指摘されてきました。
久保まさに、私の友人がそうでした。数字で見れば「不採用が一件増えた」だけなんです。でも本人からすると、何ヶ月もかけて積み上げたものを、一度に否定されたように感じてしまう。頑張った人ほど深く傷つく構造になっている。統計の外側に、動けなくなっている一人がいる。そこを見ないふりはできませんでした。
小宮一方で近年は、企業が学生へ直接声をかける「ダイレクトリクルーティング」、いわゆるスカウト型が急速に広がっています。主要なサービスだと、登録している学生が数十万人規模に達するとも言われ、就活生の多くが従来の応募と併用しているそうですね。
久保はい、そこは明らかに流れが変わったと感じます。求人媒体に載せて応募を待つのではなく、企業側がプロフィールを見て声をかける。特に、知名度で不利になりがちなBtoBの会社や中小企業が、限られた採用予算のなかで狙った学生と出会える手段として広げてきました。採用の主導権が、少しずつ「待つ」側から「動く」側へ移ってきている。私たちも、その大きな流れのなかにいる一社だと思っています。
小宮そうした変化の背景には、不採用そのものの捉え方が変わってきたこともあるように見えます。
久保それは大きいと思います。以前は「落ちた=能力が足りなかった」と受け止められがちでした。でも最近は、不採用は能力の否定ではなく、その年、その職種、その組織文化とのミスマッチにすぎない、という見方が採用の現場でも語られるようになってきた。同じ学生でも、募集の枠や巡り合わせが違えば結果は変わります。だったら、選考のプロセスを見えるようにして、次の機会へ引き継げるようにしたほうがいい。私たちがやろうとしていることは、この採用観の変化の、ちょうど延長線上にあるんだと思います。(笑)
小宮まず、今の活動へつながる原点から聞かせてください。
久保大学時代、仲の良い友人がある企業の最終面接まで進みました。何度も面接を受け、企業研究をして、最後の数人まで残った。それでも結果は不採用でした。その後、友人はかなり落ち込み、しばらく連絡が取れない状態になりました。
小宮当時から、現在の事業につながる考えを持っていたのでしょうか。
久保最初から現在の形を思い描いていたわけではありません。将来の事業計画よりも、目の前にいる人や、目の前で起きている違和感の方が先でした。後から振り返ると、点だった経験が一本の線につながって見えるだけだと思います。
小宮成功した人の記事は、最初から明確なビジョンがあったように編集されがちです。
久保実際は、かなり迷っています。(笑)うまくいかなかったこともありますし、今の判断が正しいか分からないまま進んだこともあります。ただ、何もしないまま後悔するより、行動して確かめる方を選んできました。
小宮どのような社会の問題を感じたのでしょう。
久保最終面接まで進んだということは、その人の能力や魅力が何度も評価されたということです。それが不採用通知一通で消え、また一社目から始めなければならない。私はそれを、就職活動に残された社会のバグだと感じました。
私はそれを、
就職活動に残された社会のバグだと感じました。
小宮既存の仕組みには、合理的な理由もあるはずです。
久保もちろんです。就職活動に関わる仕組みは、多くの人が長い時間をかけてつくってきました。すべてを否定するつもりはありません。ただ、以前は合理的だった方法が、環境の変化によって誰かを苦しめることがあります。そのときは、守ることと変えることを分けて考える必要があります。
小宮違和感を感じても、実際に事業へする人は多くありません。
久保私も、最初は事業になるか分かりませんでした。社会課題という大きな言葉を先に掲げたのではなく、一人でも本当に必要としてくれる人がいるかを確かめました。小さく始め、反応を見て、必要とされる部分だけを残していきました。
小宮最初の行動について教えてください。
久保最初はシステムもありませんでした。企業の人事担当者へ一社ずつ連絡し、別の企業の最終面接まで進んだ学生に会ってもらえないかお願いしました。サービスというより、友人への大きなおせっかいでした。
小宮外から見るより、かなり地道ですね。
久保新しい事業というと、画期的なアイデアやテクノロジーが注目されます。でも最初は、電話をする、話を聞く、掃除をする、試作品をつくるといった地味な作業ばかりです。誰にも知られていない段階で、それを続けられるかが一番難しいと思います。
小宮会社名を名乗ると、相手が一瞬だけ「今、何と言ったのだろう」という顔をするんです。でも、その一瞬のおかげでABABAという名前を覚えてもらえます。(笑)
久保笑える話として話せるのは、今だからです。当時は、目の前の問題を解決することに必死でした。ただ、深刻になりすぎると長く続かないので、自分たちの失敗を笑える余白は大切にしています。
小宮資金や事業性については、どのように考えてきましたか。
久保学生起業だったので、まとまった資金はありませんでした。ビジネスコンテストへ何度も出場し、賞金を次の開発費や営業の交通費に充てました。計算すると賞金だけで約550万円になり、創業融資と合わせて事業を始めました。
小宮理念と利益がぶつかる場面もありますか。
久保あります。理念だけを優先すると事業が続かず、利益だけを優先すると、何のために始めたのかが分からなくなる。どちらか一方を選ぶのではなく、目的を実現するために必要な利益をどう生み出すかを考える必要があります。
小宮数字を見ることは、冷たいことではない。
久保むしろ、長く責任を持つために必要です。サービスを利用する人、働く人、協力してくれる人がいる以上、途中で「思いはありましたが続きませんでした」と終わるわけにはいきません。数字は理念を現実に置き続けるための体温計だと思っています。
数字は理念を現実に置き続けるための
体温計だと思っています。
小宮働き方や組織づくりでは、何を大切にしていますか。
久保社長が営業、開発、広報、採用のすべてで一番詳しい必要はありません。自分より優秀な人を各分野に置き、その人が力を発揮できる状態をつくることが経営者の仕事だと思っています。
小宮自分より優秀な人や、異なる考えの人に任せるのは怖くありませんか。
久保怖さはあります。ただ、自分一人の能力で届く範囲には限界があります。自分と同じ人だけを集めれば話は早いですが、見える景色も同じになります。異なる経験を持つ人が意見を言える方が、判断の質は上がります。
小宮意見がぶつかったときは?
久保誰が言ったかより、最終面接にとって何がよいかへ戻ります。肩書や声の大きさで決めると、組織は少しずつ考えなくなります。決定した後は責任者を明確にしますが、決める前には反対意見も歓迎したいです。
小宮ご自身の性格は、経営や制作に向いていると思いますか。
久保向いている部分と、向いていない部分の両方があります。気になったことを放置できないのは強みですが、細かいところまで考えすぎることもあります。自分の弱みをなくすより、弱みが問題にならない環境をつくることを意識しています。
小宮仕事から完全に離れる時間はありますか。
久保完全には難しいです。何かを見ても仕事のヒントとして考えてしまいます。ただ、意識して人と話したり、歩いたり、別の分野に触れたりする時間は取ります。仕事と無関係に見える経験が、後から大きな発想につながることがあります。
小宮周囲からは、仕事ばかりだと言われませんか。
久保言われることはあります。(笑)自分では休んでいるつもりでも、話題がいつの間にか事業へ戻っています。相手からすると、休憩中に会議へ連れ戻されたような気持ちかもしれません。
小宮就職活動について、特に誤解されやすい点は何でしょう。
久保就職活動は、外から見ると単純な一つの問題に見えます。しかし実際には、利用する人、現場で働く人、事業を運営する人で見えている課題が違います。一つの正解を押しつけるのではなく、それぞれの立場で何が失われ、何が守られているかを丁寧に見る必要があります。
小宮就職活動を変えるために、一番必要なものは何ですか。
久保特別な才能より、観察と継続だと思います。小さな変化は数字や派手なニュースになりにくいですが、現場では確実に積み重なります。就職活動に関わる人の声を聞き、一度決めた方法も必要なら修正する。その繰り返しが、結果として大きな変化になります。
小宮これまでの中で、最も苦しかった時期は?
久保結果が出ない時期より、何を信じて進めばよいか分からない時期が苦しかったです。努力すれば必ず成功するわけではありません。続けることが正しいのか、やめることが正しいのか、その判断を自分で引き受けなければならない。
小宮どうやって決断したのでしょう。
久保最初に解決したかった問題へ戻りました。今の方法に執着せず、その問題に近づいているかを考える。近づいていなければ変える。怖さがなくなることはありませんが、判断の基準を持つことで前へ進めます。
小宮失敗をどのように捉えていますか。
久保失敗した事実を格好よく言い換える必要はないと思っています。失敗は失敗です。ただ、失敗の理由を言葉にし、次の判断へ使えれば、そこで支払った時間やお金を完全な損失にはせずに済みます。
小宮スカウト型の採用サービスは、いまや主要なものだと登録している学生が数十万人規模に達していると言われます。企業から学生へ直接声をかける流れが当たり前になるなかで、ABABAならではの独自性はどこにあるとお考えですか。
久保数の大きさそのものは、正直あまり意識していません。学生に直接アプローチするという意味では、私たちも同じ土俵にいます。違うのは、何を手がかりに声をかけるか、だと思っています。多くのサービスは、学生が自分で書いたプロフィールや志望動機を起点にします。私たちが起点にしているのは、その学生が別の企業の選考を、最終面接まで実際に通過したという事実です。
小宮自己申告ではなく、他社の評価そのものを使う、と。
久保そうです。自分で自分を語る言葉は、どうしても盛られたり、逆に控えめになったりします。けれど「他社が最終まで残した」という事実は、その学生が意図してつくれるものではありません。誰かが真剣に時間をかけて評価した結果です。私たちは、その捨てられていた評価を、次の企業がもう一度読める形に置き直しているだけなんです。ゼロから価値を生み出したというより、すでにあった価値を拾い直している感覚に近いです。
小宮他社が積み上げた評価を、いわば流通させているわけですね。
久保流通という言い方は、少し照れますね。(笑)ただ、近いと思います。ある企業にとっての「残念ながら今回は」は、別の企業にとっては「ぜひ会いたい」かもしれない。同じ人でも、枠や巡り合わせが違えば結果は変わります。その差を、学生一人の努力の問題にしてしまうのはもったいない。事実を、次の場所へ渡せるようにしておく。そこに私たちがいる意味があると思っています。
小宮一方で、扱っているのは「不採用になった」という、学生にとって最もデリケートな情報でもあります。選考プロセスの透明化やデータ化が進むほど、その情報の重さも増します。慎重さや倫理の面では、どんなことを考えていますか。
久保そこは、事業のいちばん核心だと思っています。私たちが扱っているのは、その人が一番見せたくなかったかもしれない瞬間です。だからこそ、「落ちた」という事実を、そのまま生々しく企業へ渡すことは絶対にしたくない。私たちがやりたいのは、不採用を晒すことではなく、その手前まで積み上げた頑張りのほうを見えるようにすることです。同じ情報でも、どちらの側から光を当てるかで、まったく意味が変わります。
小宮学生側と企業側では、その情報の見え方も、持っている力も対称ではありません。そこはどう設計しているのでしょう。
久保おっしゃる通り、そこには非対称があります。企業はデータとして大量の学生を見られますが、学生は自分の情報が誰にどう見られているか、本来わかりにくい。だから、主導権はできるだけ学生の側に置くようにしています。何を、誰に、どこまで見せるかを本人が決められること。嫌なら止められること。それが担保されていないと、便利さは簡単に暴力に変わります。仕組みが強くなるほど、使う人の尊厳を守る設計を先に置かないといけない、と思っています。
小宮効率化と、人の尊厳が、ときにぶつかる。
久保ぶつかりますね。データ化すると、人はどうしても項目や点数に見えてきます。でも、私たちが最初に助けたかったのは、統計の中の数字ではなく、連絡が取れなくなった一人の友人でした。効率を上げること自体は否定しません。ただ、効率の話をしているときほど、その先に落ち込んで動けなくなっている誰かがいることを忘れないようにしたい。そこを忘れた瞬間に、この事業はやる意味がなくなると思っています。
小宮最後に、これから実現したい未来を教えてください。
久保一度の不採用で、それまでの努力も自信も消えない社会をつくりたいです。落ちた企業からも「あなたには価値がある」と送り出され、別の場所で強みが生きる。就職活動を、自信を失う時間ではなく、自分の可能性を知る時間へ変えたいです。
小宮かなり大きな目標ですね。
久保大きいと思います。ただ、大きな変化も、最初は一人の困りごとや、一つの小さな違和感から始まります。自分たちがすべてを変えられるとは思っていません。それでも、自分たちが変えられる範囲を広げ続けたいです。
小宮数年後、どんな言葉で評価されたいですか。
久保有名になった、会社が大きくなったということより、『企業の評価について、以前より選択肢が増えた』と言われたいです。自分の名前が残ることより、仕組みが残り、次の世代には当たり前になっていることが理想です。
今まで見過ごされていた価値を、
次の人へ渡せる形にする仕事だと思います。
取材後記 / Editor's Note
取材を通して印象的だったのは、本人が成功談だけを切り取ろうとしなかったことだ。
現在の結果だけを見れば順調に見えるが、その裏には小さな判断と修正の積み重ねがある。
新しい仕組みをつくることは、古いものを否定することではない。残す価値と変える必要を見分ける仕事でもある。
本人は、未来を語るときにも現場の具体的な動作や、利用する一人の表情へ話を戻した。
大きな理想を掲げながら、今日何をするかを言葉にできることが、この人物の強さなのだろう。
周囲を巻き込みながらも、最後の判断を他人のせいにしない姿勢が一貫していた。
華やかな肩書より、誰のどんな不便を減らしたいのかが、すべての話の中心にあった。
数年後、現在の挑戦が当たり前の仕組みになったとき、本人の名前を知らない利用者も増えるかもしれない。
それでも、名前より仕組みが残る方がよいという言葉に、事業や制作への覚悟が表れていた。
久保 駿貴 Shunki Kubo
- 生まれ
- 1997年・兵庫県明石市
- 学歴
- 関西大学から岡山大学へ編入
- 事業
- 学生時代に株式会社ABABAを創業
- サービス
- 他社の最終面接まで進んだ学生を企業がスカウト。不採用を「推薦」へ変える
- 掲げること
- 就職活動のプロセスを評価する
取材・文|小宮 聡(Forbes JAPAN 記者) 撮影|― 編集|FORBES NEXT 編集部


